#30DaysSongChallengeクラシック版 をお題にしてブログを書いているときもそうだけど、なにかテーマを設定してそれに合致するような曲やCDを考えるのは結構楽しい。つい数時間前にもTwitterでクラシック音楽を通して知り合った方々と通話していたのだけれど、今日の話題は「推しのCD10選」だった。入手できるCDであることや、知名度の高い作曲家ではあるがあまり聞かれてはいない曲を収録したものであることなど、基準を自分で設定して選定するのが、音楽を自分の言葉で語る訓練にもなる。
この企画もそうした訓練の一つとして有効だ。
さて、本日4日目のお題は「人生を変えた曲」。これもクラシック音楽を聞き続けることにしたものや、ヴァイオリン演奏をし続けるきっかけとなったものなど様々なシーンに分けられる。
人生を変えた曲
この曲でクラシック音楽を聞き続けることにした
高校2年生のときだった。夏頃にグスタフ・マーラー:交響曲第2番 ハ短調 のアントニ・ヴィト/ポーランド国立放送交響楽団による録音のCD
を聞かせてもらい、その作曲家を聞き始めた。高校生であるうちに第1〜6・8・大地の歌・10(第1楽章のみとクック版)を聞いた。
マーラーを聴き始めて数ヶ月経った高校2年生の秋は、幾つかある人生の不運な時期の一つで、詳しくは書かないけれども家庭の事情で大学進学への路が一時阻まれた。将来に対する希望を刈り取られてしまうという焦りに駆り立てられていて、その心理とマーラーの音楽が実にマッチした。
当時住んでいた家は小さく、マーラーをスピーカーで聞くとなるとカーステレオに頼らざるを得なく、多少音楽に理解のある母に頼んで学校と自宅との往復に音楽を自動車内で聞かせてもらっていた。
iTunesにはないが、ヴァーツラフ・ノイマン/チェコフィルハーモニー管弦楽団によるマーラー:交響曲第1番 ニ長調と第10番 嬰ヘ長調 第1楽章という組み合わせで、第10番が先に収録されているディスクをかけた。
家でヘッドホンで聞いたのが 最初だったのか覚えてはいないが、大音量で聞いたのはカーオーディオでは初めてだった。
伴奏無しでヴィオラが15小節弾く、憂い深いAndanteから途切れずに弦五部とトロンボーンが加わるAdagio、その第1音が心に響いた。そのとき初めて音楽を聞いて涙を流した。そんな共鳴を崩してしまうカタストロフ、それでも穏やかな美しさを終止音まで引き伸ばす音楽はそのままマーラーを、そしてクラシック音楽を聞いていくのに十分なきっかけだった。
アマチュアながらも演奏家としての自信を築いた一曲
大学3年の冬、所属していた大学オーケストラのアンサンブル大会でわたしは仲のいい部員と弦楽四重奏をやろうと仲間を誘い、自分の選んだ曲を提案した。
ロベルト・シューマンの弦楽四重奏曲第3番 イ長調 作品41の3 より第3楽章である。
Doric String Quartet - Schumann String Quartet Op. 41 No. 3 - 3rd Movement
- 弾けそうな曲であること
- 歌いたいので緩徐楽章であること
という条件で、その時点で知っていた曲で選んだ。この直前にシューマンの弦楽四重奏曲を聞いていて、これがとても気に入ったのだ。
わたしが第1ヴァイオリンを弾いて5〜6回ほど練習し、Doverの廉価版スコアを参照してもらい、ここをこう演奏して欲しいと伝えて本番に臨んだ。
曲にマッチした音色や演奏ができたことが演奏中でも満足できたし、録音を後で聞いてそれを確信できた。
楽器の腕はともかく、アマチュアでやっていくなら、この音楽の作り方でやっていけると思ったのである。
物事は万事幸福とはいかない。その後、精神疾患で継続できなかったり人間関係が上手くいかなかったりで、10年前、ついに中断してしまった。
復帰を決めた1曲
2018年12月に音楽教室に通うことで音楽活動を再開するまでは、時々楽器と楽譜を取り出しては少しだけ弾いて遊ぶことはあったが、ちゃんと練習を積み重ねることはなかった。楽団に所属したり合奏仲間がいるわけでもなかったのでモチベーションを保つことができなかった。
あるときにセザール・フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調
フランク ヴァイオリンソナタ第1・2楽章 中村ゆかり 藤井一興 Franck Sonate Ⅰ・Ⅱ Yukari Nakamura(Vn) Kazuoki Fujii(Piano) LIVE
フランク ヴァイオリンソナタ第3・4楽章中村ゆかり 藤井一興 LIVE Franck Sonate Ⅲ・Ⅳ Yukari Nakamura(Vn) Kazuoki Fujii(Piano)
の楽譜を買っていた。特に曲に惹かれていたわけではないけれど、有名な曲でよく演奏会で取り上げられているからネタになる、という理由だったと思う。
演奏から離れてしばらくし、今通っている大学へ再入学した。そこで同じ研究室の学生に演奏会でこの曲を聞き気に入ったとわたしに語った人がいて、じゃあ弾いてみるか、ということで彼女の前でこの曲を弾いたのだ。
しばらく弾いていなくても楽器を手放さずにいて本当によかった。音色を褒められて、楽器を続けるよう勧められた。自信とモチベーションを失っていたが、誰かに聞いてもらえる機会ができることは十分に復活の理由になる。それが17年秋のこと。しばらく一人で、ときには家で弱音器をつけ、ときにはクラシック音楽研究会の部室で練習した。
一人での練習には限界を感じるもので、やはり楽器の上達の近道は、自分よりうまい人に習うこと。それで仙台市青葉区にある音楽教室を探し、入会金+月々の受講料でヤマノミュージックサロン仙台に通うことにした。
コースではどの講師も生徒の希望に応じたレッスンを組んでくれて、目下の目標としてフランクのソナタ全曲を弾きたいことを伝えて、8年間のブランクを埋めるべく3曲ほど準備運動として選んでもらい、それらを弾いた。途中、オプションのレッスンでサントリーホールで弾くことがあって(下記記事参照)
これで9年ぶりにステージで弾き、これを音楽活動の復帰とした。4月からフランクのソナタを習い始め、10月下旬に開かれる発表会に第4楽章を弾くことにし、それに合わせて見てもらう楽章の順は1→2→4→3と、第3楽章を発表会が終わった後に設定。
発表会までは、練習は勿論のこと、授業間の休み時間や空きコマに楽譜を読んだり、勉強中には様々な音源を聞いて演奏における表現を模索。9月には、この曲を取り上げたヴェロニカ・エーベルレ/児玉麻里によるリサイタルも聞きにいった。
こうしたことを養分にピアノ合わせや本番を迎えた。リハーサルではボロボロだったものの、その後集中して上手くいかなかった部分をさらったのが功を奏し、自他に認めるいい演奏ができたように思う。
演奏を聞いてもらう機会は楽器を続ける上でモチベーションを保つには必要不可欠だ。褒められれば尚いい。同じ研究室の学生やフランクに感謝したい。